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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)335号 判決

主文

一  原判決中被控訴人等に関する部分を取り消す。

二  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金一四六万六四一〇円及び内金一四六万四一八七円に対する昭和五六年九月四日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合(一年を三六五日とする日割計算)による金員を支払え。

三  被控訴人中山公典は、控訴人に対し、金六八二万七二二〇円及び内金五八四万四〇三二円に対する昭和五七年一〇月二七日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合(一年を三六五日とする日割計算)による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

五  この判決の二項、三項は仮に執行することができる。

理由

一  請求原因について

訴外会社が三和銀行から三回に亘り金員を借り受け、第一ないし第三債務を負担したこと、控訴人が訴外会社から委託を受けて同会社の三和銀行に対する右各債務の履行を保証したことは、当事者間に争いがなく、証拠(甲一、七、一三)によれば、(1)訴外会社は、控訴人に対し、第一債務の保証委託に際し、最終弁済期経過後現実の弁済日までは借入残額に対して年三・六五パーセントの割合による延滞保証料を支払うことを、第一ないし第三債務の保証委託に際し、控訴人が第一ないし第三債務を代位弁済したときは弁済額に対し弁済日の翌日から年一八・二五パーセントの割合による損害金を支払うことをそれぞれ約したこと、<2>被控訴人中山は、第一ないし第三債務の保証委託に際し、被控訴人水流は、第一及び第二債務の保証委託に際し、それぞれ控訴人に対し、訴外会社の控訴人に対する求償債務の履行を連帯保証したことが認められ、控訴人が、昭和五六年九月三日、第一債務の残金一三万七三八五円、第二債務の残金一三二万六八〇二円、第三債務の残金五九三万六〇五四円を三和銀行に代位弁済したこと、第一債務の残元金に対する昭和五六年三月二六日から同年九月三日までの延滞保証料が二二二三円であることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、控訴人が、昭和五六年九月三日、訴外会社からの預かり金五万五七四〇円を第三債務についての求償債権元金の弁済に充当し、昭和五七年一〇月二六日、破産配当金として支払を受けた金三万六二八二円を同求償債権元金の弁済に充当したこと、したがつて、その結果右求償債権元金の残額は五八四万四〇三二円となつたことが認められる。

二  抗弁(求償権の連帯保証債務履行請求権の時効消滅)について

被控訴人らは、控訴人の被控訴人らに対する求償権の連帯保証債務履行請求権が昭和五六年九月四日から、また昭和五七年一二月四日から五年の経過により時効消滅したと主張する。

訴外会社が土木建築工事一式の請負等を目的とする株式会社であることは当事者間に争いがなく、前記のとおり訴外会社の控訴人に対する本件保証委託行為は主たる債務者たる訴外会社の営業のためになされたものであるから、控訴人の訴外会社に対する求償権は商行為により生じた債権として五年の消滅時効に服するものであり、従つて、右求償債務を保証した被控訴人らに対する連帯保証債務履行請求権の消滅時効期間も五年と解すべきである。

そして、控訴人が第一ないし第三債務を弁済し、訴外会社に対し求償権を取得した日の翌日である昭和五六年九月四日から起算して五年が経過したこと、また、破産裁判所が昭和五七年一二月三日、訴外会社に対する破産終結決定をし、同月四日をもつて訴外会社の商業登記簿が閉鎖され、同日から起算して五年が経過したことは、当事者間に争いがない。

そうすると、右消滅時効につき時効の中断がなされないかぎり、控訴人の被控訴人らに対する求償権及び連帯保証債務履行請求権は時効により消滅することになる。

三  再抗弁(消滅時効の中断)について

1  三和銀行が昭和五六年八月一日、訴外会社に対する第一ないし第三債務の残金にかかる債権(原債権)を破産債権として破産裁判所に届け出たこと、右債権は、同年一一月九日の破産事件の債権調査期日において、管財人らから異議が述べられず確定したこと、控訴人は、昭和五七年九月二七日、前記のとおり代位弁済したこと及び求償権を取得したことを内容とする破産債権承継届出書を破産裁判所に提出したことは、当事者間に争いがない。

2  控訴人は、原債権が破産債権として届出がなされ、これが確定した後に、これを代位弁済した控訴人が右原債権の承継を破産裁判所に届け出れば、求償権自体について破産債権届出をしなくても、求償権の消滅時効が中断する旨主張するので、その当否につき検討する。

(一)  三和銀行は、昭和五六年八月一日、原債権を破産債権として破産裁判所に届け出て、右債権は確定したから、右破産手続参加により、原債権の消滅時効は中断した。

(二)  控訴人は、昭和五六年九月三日、三和銀行に対し、原債権の弁済をし、求償権を取得した。

(1) ところで、右求償権と原債権とは、元本額、弁済期、利息、損害金の有無・割合等を異にする別個の債権ではある。しかし、弁済による代位の制度は、代位弁済者の債務者に対する求償権を確保することを目的とし、弁済によつて本来消滅することとなる原債権及びその担保権がそのまま弁済者に移転し、弁済者がこれを求償権の範囲内で行使しうることとするものであつて、代位弁済者に移転した原債権は、求償権確保のための手段的なものということができる。

(2) 本件においては、原債権が先に破産債権として破産裁判所に届出がなされて、これが異議なく確定した後に、控訴人が右破産債権につき承継届出書を破産裁判所に提出したものであるが、証拠(甲二一の二、四)及び弁論の全趣旨によれば、右破産債権承継届出書は、控訴人が原債権を代位弁済して求償権を取得したことを内容とし、三和銀行が原債権につき届け出た破産債権を承継するものとして、控訴人と三和銀行の連名で提出されたものであり、これに基づき破産債権表に右承継届出の事実及び破産管財人が右承継事実を承認したことが記載され、破産管財人が最後配当金三万六二八二円を支払つた旨記載した付箋が破産債権表に貼布されており、破産管財人の「破産者中山建設(株)配当金三万六二八二円支払済」の記載が、原債権の債権証書たる金銭消費貸借契約証書ではなく、控訴人の求償権の債権証書である信用保証委託契約書になされていることが認められる。

右のような破産手続上原債権についての新旧両債権者の承継手続の履践状況からすれば、右の破産債権承継届出書の提出ではなく、求償権自体について破産債権の届出をしなければ、求償権の消滅時効中断の効果が認められないとすることは、代位弁済した求償権者の通常の期待に著しく反する結果となる。

右(1)、(2)を勘案すれば、破産債権の届出がなされ消滅時効の進行が中断された原債権をそのまま承継したとの破産債権承継届出書を破産裁判所に提出し、これに基づいて破産債権表に右承継届出の事実及び破産管財人が右承継事実を承認したことが記載されたことにより、求償権ひいては求償権の連帯保証債務履行請求権もまた消滅時効の中断の効果を受けると解するのが相当である。

3  ところで、右により中断した消滅時効は、破産手続の終結により再び進行を始めると解せられるところ、訴外会社に対する破産終結決定が昭和五七年一二月三日になされたことは、当事者間に争いがない。

原債権は、破産債権として届出がなされ、債権表に記載され異議なく確定したところ、確定債権についての債権表の記載は確定判決と同一の効力を有するから、右債権表に記載された原債権の消滅時効については、民法一七四条の二第一項により、その時効期間は一〇年と解すべきである。

そこで、右原債権につき連帯保証人としてその弁済をし、原債権を取得した控訴人の求償権ひいては被控訴人らに対する求償権の連帯保証債務履行請求権の消滅時効の期間も一〇年に延長されるか否かにつき検討する。

本件においては、前記のとおり、原債権が確定判決と同一の効力を有するものによつて確定した権利として、これに強い証拠力が付与されたものであるところ、控訴人は、そのような強い証拠力を付与された原債権について弁済をして求償権を取得し、その求償権について、右原債権の破産債権届出者たる三和銀行と連名で、破産裁判所に対して、右原債権の破産債権承継届出書を提出し、これに基づいて破産債権表に右承継届出の事実及び破産管財人が右承継事実を承認したことが記載されたから、右破産債権表の記載によつて、控訴人の求償権ひいては被控訴人らに対する求償権の連帯保証債務履行請求権もまた右原債権も同じく強い証拠力が付与されたものとみるべく、その消滅時効期間もまた右原債権のそれと同様一〇年に延長されると解するのが相当である。

そうすると、控訴人の本訴提起は、訴外会社に対する破産終結決定がなされた昭和五七年一二月三日の翌日から起算して一〇年の期間内になされたこと明らかであるから、控訴人の被控訴人らに対する求償権の連帯保証債務履行請求権は、未だ時効により消滅したものとはいえない。

なお、被控訴人中山は、仮に破産終結決定により訴外会社の負う主たる債務である求償債務が消滅しない場合、控訴人の訴外会社に対する求償債権については、原判決により訴えの却下の判決がなされ、これに対して控訴がないので、同求償債権は破産終結決定後一〇年の経過により時効消滅したので、これに付従して、控訴人の被控訴人中山に対する連帯保証債務履行請求権も時効消滅したと主張するが、控訴人が本件訴訟を提起した平成四年一一月一二日の時点においては、前記の如く控訴人の被控訴人らに対する本件連帯保証債務履行請求権については未だ消滅時効は完成していないので、連帯保証人たる被控訴人中山に対して本件訴訟を提起したことによつて、控訴人の訴外会社に対する求償債権の消滅時効も中断したというべきである(民法四五八、四三四条)から、右主張は採用できない。

四  結論

以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する本件各請求は、いずれも理由があるからこれを認容すべきである。

よつて、これを棄却した原判決は失当であるからこれを取り消し、控訴人の本訴各請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 武田多喜子 裁判官 横山敏夫)

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